
岡山発、地方企業M&Aの成功モデル誕生
2025年9月22日、岡山県倉敷市を拠点とするダブルツリー(旧ハヤシ)が、瀬戸大橋温泉「やま幸」を運営する山本幸の全株式を4億円で取得し、2026年1月に子会社化すると発表した。
この買収は、自動車販売を主力とするダブルツリーにとって初の企業買収案件となる。買収資金の内訳は株式取得4億円に加え、おかやま活性化ファンド2号からの貸付債権約5億3000万円の承継も含まれる。パートを含む約120人の従業員は全員継続雇用される予定だ。
地方企業による戦略的M&Aは、単なる規模拡大ではなく「事業の多角化」「地域経済の活性化」「雇用維持」という3つの価値を同時に実現する新しいビジネスモデルとして注目される。特に、再生ファンドが支援した企業を地元企業が承継する構図は、地方経済の循環型成長を象徴している。
木村: 総社市の事務所から見ても、この買収は岡山県全体の経済発展にとって大きな意味を持ちますね。地元企業同士が手を組んで成長していく姿は、まさに地方創生の理想形です。ダブルツリーの林社長の「地元で愛されてきた施設を維持する」という発言からも、単なる利益追求ではない地域への愛着が感じられます。
ダブルツリーの成長軌跡:軽自動車販売から多角化企業へ
ダブルツリーは1987年に「ハヤシ」として創業し、2023年4月に現社名に変更した。軽自動車専門店「くるまのハヤシ」として岡山・香川で5店舗を展開し、地域最多の販売数・点検数を誇る確固たる基盤を築いている。
2022年12月期の売上高は125億円、従業員数378名(2025年2月現在)という規模は、地方企業としては異例の成長を遂げている。特筆すべきは、2024年12月16日に東京証券取引所の東京プロマーケット(TPM)に上場を果たした点だ。これにより社会的信頼性が飛躍的に向上し、厚生労働省からの「くるみん認定」も取得している。
近年は「地元にあったらイイな」をコンセプトとしたコンフォタブルライフ事業への展開が加速している:
- カフェ事業:タリーズコーヒー、2024年4月開店の「くらしきドーナツの木」(美観地区唯一の生ドーナツ店)
- フィットネス事業:エニタイムフィットネス(妹尾店を2024年12月新規オープン)
- 観光事業:2022年秋開業のグランピング施設「OKAYAMA GLAMPING SORANIA」
- 宿泊事業:2025年9月に倉敷美観地区一棟貸し宿泊施設「泊葉 – HAKUHA -」開業
木村: ダブルツリーの多角化戦略は実に巧妙です。自動車販売という安定した収益基盤を持ちながら、観光・宿泊・飲食と地域密着型の事業を次々と展開している。特に倉敷美観地区での宿泊施設運営は、今回の山本幸買収との相乗効果が期待できそうですね。
山本幸の再生ストーリー:債務超過からの華麗なる復活
山本幸株式会社は1954年5月設立の老舗企業で、創業者山本幸雄が大阪で繊維問屋として創業したのが起源である。瀬戸大橋温泉「やま幸」の歴史は1971年の「民芸茶屋 やま幸」開店に始まり、1988年4月の瀬戸大橋開通に合わせて現在の温泉宿泊施設がオープンした。
施設の特徴は地下1106mから湧出する毎分650Lの豊富な湯量を誇る天然温泉を核とした総合レジャー施設であることだ:
| 施設カテゴリ | 具体的設備 |
|---|---|
| 温浴施設 | 岩風呂、露天風呂、薬草風呂、寝湯・半身浴、泡風呂、サウナ |
| 宿泊施設 | 和室・洋室を備えたホテル機能 |
| 飲食事業 | 本館レストラン、別館いけす料理店 |
| 娯楽施設 | 大衆演劇場、カラオケスタジオ、ダンスホール、碁会所 |
2019年度から「おかやま活性化ファンド2号」の支援を受け、現在は宮本健氏が社長を務める山本幸の財務改善実績は目覚ましい:
財務改善の軌跡:
- 2023年3月期:純資産△157,036千円、売上高306,624千円、営業利益△135,791千円
- 2024年3月期:純資産1,062千円、売上高600,815千円、営業利益53,021千円
- 2025年3月期:純資産27,560千円、売上高602,944千円、営業利益49,726千円
この数字は、ファンドの支援により債務超過状態から脱却し、売上高を約2倍に回復させた事業再生の成功例を示している。
木村: 山本幸の再生ストーリーは感動的ですね。債務超過から2年で黒字転換、売上高2倍達成という数字の裏には、従業員一丸となった努力があったはずです。おかやま活性化ファンドの支援も的確だったと思います。地域の温泉施設がこうして生まれ変わる姿は、総社市でも参考になる事例です。
おかやま活性化ファンド2号:地域企業再生の新モデル
山本幸の株式を保有する「おかやま活性化ファンド2号投資事業有限責任組合」は、2018年6月1日設立の官民一体型企業再生ファンドだ。ファンド総額30億円という規模は、地方ファンドとしては大型の部類に入る。
出資者構成を見ると、中小企業基盤整備機構(15億円)、中国銀行(10.6億円)を筆頭に、トマト銀行、各種信用金庫、岡山県信用保証協会等が参画している。運営会社はおかやまキャピタルマネジメント株式会社が担っている。
このファンドの特徴は「転売や資産処分等を通じた短期的な投資回収による安易な利益の獲得を目指すことなく、継続的な経営又は技術等に関する支援を行う」点にある。つまり、単なる金融投資ではなく、地域経済の持続的成長を重視したハンズオン型の支援を行っている。
山本幸のケースでは、2019年度の支援開始から約6年間で事業再生を達成し、今回地元企業への承継という形で「出口戦略」を実現した。この成功モデルは、地方における中小企業再生の新しいスタンダードとなる可能性が高い。
木村: おかやま活性化ファンドの手法は非常に洗練されていますね。短期的な利益追求ではなく、長期的な企業価値向上を目指す姿勢が素晴らしい。6年間かけて山本幸を再生し、最終的に地元企業に承継させる一連の流れは、地域経済の好循環を生み出すベストプラクティスだと思います。
地方企業M&A戦略の新潮流と今後の展望
今回の買収が示すのは、地方企業によるM&A戦略の質的変化である。従来の「規模の経済追求」から「事業の多角化」「地域貢献」「持続的成長」を重視する方向への転換が見て取れる。
ダブルツリーの戦略的メリットは3点に集約される:
- 事業多角化の推進:観光と健康を融合させた滞在型宿泊事業への本格進出
- 地域基盤の強化:地元で30年以上続く歴史ある施設の信頼とブランド力の継承
- シナジー効果の創出:自動車関連事業との相乗効果創出(林和樹社長談)
特に注目すべきは、買収後の雇用維持への配慮だ。パートを含む約120人の従業員は全員継続雇用される予定で、林和樹社長は「地元で愛されてきた施設なので現状のサービスを維持する」と明言している。これは急激な変革ではなく継続性を重視した経営方針を表している。
2026年1月5日の買収完了後、両社の統合効果として期待されるのは:
- ダブルツリーの宿泊事業ノウハウと山本幸の温泉施設運営の融合
- 顧客データベースの統合による相互送客の実現
- 観光客の「移動(レンタカー)→宿泊(温泉)→体験(グランピング)」一貫サービス
- 地域観光資源としての倉敷・総社エリア全体の魅力向上
この成功モデルが他の地方企業にも波及すれば、地方経済の活性化に大きな影響を与える可能性がある。特に、再生ファンド→地元企業承継というスキームは、地域経済の好循環を生み出す新しい成長エンジンとして機能するだろう。
木村: この買収劇を見ていると、岡山・倉敷・総社エリアの観光業界に新しい風が吹いているのを感じます。ダブルツリーのグランピング施設「SORANIA」と山本幸の温泉施設が連携すれば、県外からの観光客にとって魅力的な滞在プランが提供できそうです。総社市としても、この流れに乗り遅れないよう地域連携を強化していきたいですね!
関連リンク
ダブルツリー公式サイト
瀬戸大橋温泉やま幸公式サイト
OKAYAMA GLAMPING SORANIA
くるまのハヤシ公式サイト
中国銀行



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