小豆皮を「資源」に変える——岡山発、谷尾食糧工業×岡山大学の産学共同研究が目指す食品ロスゼロへの挑戦

「捨てるしかなかった小豆の皮」が、発酵によって生まれ変わろうとしている

岡山県和気郡和気町に本社を置く谷尾食糧工業株式会社が、月間約2トンにも上るこしあん製造の副産物「小豆皮残渣」を、食品素材として活用するための共同研究を国立大学法人 岡山大学と進めています。

食品製造の現場では、製品化される部分だけが注目されがちです。しかし実際には、製造工程で大量の副産物が生じており、それらの多くは飼料や廃棄物として処理されています。谷尾食糧工業が挑む「小豆皮の高機能化」は、その現実に真正面から向き合う取り組みです。2025年2月にスタートした共同研究は2年目を迎え、発酵条件の最適化と実用化検証へと歩みを進めています。

岡山を拠点とする食品メーカーが、地域の大学・研究機関・企業と連携しながら取り組むこのプロジェクトは、単なる製品開発を超えた意義を持っています。食品ロスの削減、副産物の付加価値化、地域資源の循環——岡山発のこの挑戦は、日本の食産業が抱える課題に対する一つの回答になりうるものです。

1930年創業・谷尾食糧工業の「原料から向き合う」姿勢

谷尾食糧工業株式会社の歴史は、1930年(昭和5年)に岡山県玉野市で乾燥あん(小豆粉末)の製造から始まりました。戦後の再建、1965年の法人化を経て、現在では製餡業を基盤に、果実缶詰・レトルト食品・カップゼリー・果汁入り飲料など多岐にわたる食品を製造。国内外に生産拠点を持ち、広く製品を供給しています。

谷尾食糧工業の農場・原料

同社の最大の特徴は、「原料への徹底したこだわり」です。

  • 小豆については、北海道・常呂町などの産地と連携し、契約栽培による安定調達体制を構築。生産者と長期的な関係を築き、品種や栽培方法をともに検討することで高品質な原料を確保。
  • 自社農園「たにおファーム」を設立し、ぶどう(ピオーネ)などの果実も自社栽培。「農から食卓まで」の一貫体制によって、原料の品質・安全性・トレーサビリティの向上を実現。

単なる食品加工メーカーにとどまらず、「原料づくりから関わる食品企業」であることが同社の強みです。この姿勢こそが、今回の小豆皮活用研究の出発点にもなっています。

谷尾食糧工業のこだわりの原料

月間約2トン——「捨てざるをえなかった」小豆皮への新しい視点

こしあんの製造工程では、小豆の皮が必ず副産物として発生します。谷尾食糧工業では、その量が月間約2トンにも上ります。年間に換算すれば24トン以上——決して小さな数字ではありません。

小豆皮には食物繊維をはじめとする栄養成分が含まれており、その機能的価値は以前から注目されていました。しかし、食品素材として安定的に活用することは技術的に難しく、これまでは主に家畜飼料として処理されてきました。

同社は以前から乾燥粉末化や酵素処理などを試みてきましたが、製品化には至りませんでした。それでも「原料を大切に使い切る」という企業理念のもと、新たな可能性を模索し続けた結果、行き着いたのが「発酵」というアプローチでした。

木村

木村より

月2トンという数字を聞いたとき、正直「それだけ出てしまうのか」と驚きました。食品製造の現場では、製品になる部分よりも、むしろ捨てられる部分の方が多いケースもある。それをコストとして計上し続けるのか、資源として再定義するのか——その判断が、企業の姿勢を如実に表すと思います。谷尾食糧工業さんの場合、答えは明確に「資源にする」でした。岡山の企業がこういった挑戦をしているという事実は、もっと広く知られていいと感じます。

「小豆皮麹」の誕生——産学連携コンソーシアムが支える研究の全貌

本研究の核心は、小豆皮を麹の基材として活用し、発酵によって呈味成分(アミノ酸や還元糖)を増加させるという着想にあります。発酵食品の世界では、麹菌の働きによってタンパク質がアミノ酸に分解され、旨味が生まれることはよく知られています。この仕組みを小豆皮に応用しようというわけです。

研究の推進体制は以下のとおりです:

機関・企業 役割
国立大学法人 岡山大学(神崎浩 特任教授) 研究代表。発酵試験・評価。応用微生物学の知見を活用。
樋口松之助商店株式会社(大阪府大阪市) 種麹メーカー。麴菌の提供および培養を担当。
岡山県工業技術センター アミノ酸などの成分分析を担当。
株式会社フジワラテクノアート(岡山県岡山市) 麴菌固体培養研究コンソーシアムの構成員として参画。
谷尾食糧工業株式会社 小豆皮(素材)の提供企業として参画。

本研究は、岡山大学寄付講座「微生物インダストリー講座」の研究活動の一環として実施されています。同講座では、未利用資源を麴菌によって高機能化する研究が進められており、上記の機関・企業で構成される「麴菌固体培養研究コンソーシアム」の枠組みのもと、それぞれの技術・知見を活かした連携が行われています。

研究の具体的なプロセスは以下の流れで進んでいます:

  1. 小豆皮を乾燥処理する
  2. 樋口松之助商店の協力のもと、麴菌を用いて製麹(小豆皮を基材とした麹づくり)に成功。現在までに6種類の小豆皮麹を作成。
  3. 岡山県工業技術センターにてアミノ酸などの成分分析を実施。
  4. 岡山大学と連携し、発酵試験・評価を実施。

その結果、ゆで小豆を添加した条件下でアミノ酸が大幅に増加し、グルコースを含む還元糖も増加することが確認されました。さらに、これらの増加傾向は菌株ごとに異なる特性を持つことも明らかになっています。

小豆皮麹の研究・発酵試験の様子

研究2年目となる2025年度は、特異的な発酵特性を示した菌株の発酵条件の最適化を進め、分析結果と官能評価を組み合わせながら、実用化の可能性を本格的に検証していきます。

まとめ——岡山から始まる「捨てない食品産業」への挑戦

谷尾食糧工業と岡山大学を中心とした本プロジェクトは、3つの方向性を同時に追求しています。

  • 食品ロスの削減——これまで飼料として処理されてきた小豆皮を食品素材として活用する
  • 副産物の高付加価値化——発酵によって呈味成分(アミノ酸・還元糖)を増加させ、食品としての魅力を引き出す
  • 地域資源の有効活用——岡山の企業・大学・研究機関が連携し、地域内で循環する価値を生み出す

同社は「伝統的な製餡技術を基盤にしながら、産学連携を通じて新たな食品価値の創出に取り組む」という方針を明確にしています。1930年の創業以来、原料と真摯に向き合ってきた企業だからこそ、「捨てる」という選択肢を選ばずに研究を続けてきたといえます。

岡山を拠点とする企業がこれだけの産学連携のエコシステムを形成し、地道に未利用資源の研究を続けているという事実は、岡山の産業の底力を感じさせます。

木村

木村のまとめコメント

岡山大学、樋口松之助商店、岡山県工業技術センター、フジワラテクノアート——このメンバーを見ると、岡山にはこれだけの技術的リソースが揃っているんだと改めて気づかされます。大学の研究知見と、種麹メーカーの菌株技術、分析機関の科学的評価が組み合わさってはじめて成立する研究です。谷尾食糧工業さんが「原料から向き合う」という哲学を持っていたことが、このプロジェクトを動かした根本にある。結果がどう出るかはこれからですが、「副産物を資源に変える」という視点そのものが、食品産業の未来を考える上で非常に重要なモデルになると思います。岡山発のこの取り組みを、引き続き注目したいです。


【お問い合わせ先】

谷尾食糧工業株式会社 商品開発部 内田恵子
電話番号:0869-93-3602 / E-mail:uchida@tanio.co.jp

国立大学法人 岡山大学 研究・イノベーション共創機構産学官連携本部
産学官連携コーディネーター 矢野 健三
TEL:086-251-8476 / E-mail:yano-kenzo@okayama-u.ac.jp

記事へのフィードバック

シェアする
タイトルとURLをコピーしました