岡山DX経営力大賞2025―地域企業の挑戦

岡山県内企業がデジタル変革で示す、地域経済の新しい可能性

2025年11月20日、岡山市北区柳町の山陽新聞社さん太ホールで、「おかやまDX経営力大賞」の表彰式が開催されました。岡山県経済団体連絡協議会などで構成される実行委員会が主催するこの賞は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の利活用に優れた企業を表彰する制度です。今回の受賞企業は、AIやIoTといった先端技術を経営戦略の中核に据え、生産性向上や業務改善において具体的な成果を上げました。

大賞を受賞したのは、岡山市北区中山下に本社を置く中国精油株式会社。同社は倉敷市玉島乙島の水島工場に、AIを活用した蒸留精製最適化システムを導入し、製造時間を約40%削減するという驚異的な成果を達成しています。優秀賞には平林金属株式会社、富士アイ、エム、シー、協和ファインテック株式会社、日笠商事、社会福祉法人津山福祉会の5社・団体が選ばれました。

製造業、リサイクル業、福祉事業と業種は多岐にわたりますが、共通するのは「技術導入だけでなく、経営そのものを変革している」という点です。DXは単なる業務効率化の手段ではなく、ビジネスモデルの転換、人材配置の最適化、さらには新規事業開発への道筋を示す経営戦略そのものになっています。

木村

木村: 岡山県内の企業が、単なる業務効率化を超えてビジネスモデル全体を見直す動きを見せているのは注目に値します。特に中小企業がDXに本格的に取り組めるようになった背景には、ノーコード・ローコード開発ツールの普及や地域の大学・IT企業による支援体制の充実があります。これは地域経済全体のデジタル基盤が整いつつあることを示しています。

大賞受賞企業・中国精油のAI活用―職人技を数値化し、人材を創造的業務へシフト

中国精油株式会社は、電子材料や化粧品原料といった化学品の受託精製を手がける企業です。同社が倉敷市玉島乙島の水島工場に導入したのが、人工知能(AI)を活用した蒸留精製最適化システム。これまで熟練者の経験や紙の記録に頼ってきた精製方法を、データに基づいたシステムに置き換えました。

AIシステムの仕組みと成果

システムの仕組みは以下の通りです:

  • 原料の特徴や生産設備の仕様を入力
  • AIが同社の過去の生産実績データを分析
  • 最適な蒸留精製方法を提案
  • 提案に従って設備が自動で連動

「これまでは、ベテラン社員の直感や経験に頼ったり、記録した紙を必死に探したりしていました」と同社は説明します。ノートルダム清心女子大学情報デザイン学部の前川浩基准教授と連携し、設備の振動データを活用した予防保全にも取り組んでいます。

導入の背景には、ベテラン社員の退職と将来的な人手不足への危機感がありました。品質のばらつきを防ぐため、同社は2022年から主に長期間の工程を要する化学品の生産に本システムを活用。成果は数字で明確に表れています:

成果項目 具体的な効果
製造時間 約40%削減
作業負担 大幅に軽減
業務配置 新しい課題に充てる時間が増加
提案力 取引先への提案力が向上

同社の社員は現在、システムの提案に従って設備を稼働させながら、化学品の試作に時間を振り向けられるようになりました。これは単なる効率化ではなく、人間にしかできない創造的な業務への人員配置の転換を実現しています。

木村

木村: 中国精油の取り組みで特に重要なのは、AIを「人の代替」ではなく「人を創造的業務に解放する手段」として位置づけている点です。熟練技術の数値化は技術伝承の課題を解決すると同時に、社員が新しい価値創造に集中できる環境を作り出しています。これは地域企業が目指すべきDXの理想形の一つです。

優秀賞企業の多様な取り組み―業種を超えたDXの広がり

平林金属株式会社―リサイクル業界でDXプラットフォームを構築

古紙回収の無人ステーション「ePOST」で知られる平林金属。同社は自社で開発・運用するアプリケーションを通じ、利便性を大幅に向上させました。ユーザーが投入した古紙の重量に応じてポイントが付与される仕組みを独自開発し、県内外の企業にシステムを製品として販売。これにより、リサイクル事業に参入する企業を支援しながら、自社の売上も大幅に拡大しています。

同社の取り組みは、DXをビジネスモデル自体の転換に活かす好例として評価されました。単なる社内業務の効率化に留まらず、システム開発を新規事業として展開することで、地域全体のリサイクル事業を底上げする役割を果たしています。

富士アイ、エム、シー―自動化で生産性向上と受注増を実現

発泡プラスチック加工を手がける同社は、受注から出荷までの情報を一元的に管理するシステムを導入。事務作業の効率化を実現しました。さらに踏み込んだ取り組みが、寸法を機械に打ち込むと自動で型抜きを行う加工機器の導入です。自動車向け部品の受注増加に向け、この新装置で生産ラインを最適化。急増する注文に対応できる体制を整えています。

協和ファインテック株式会社―ギアポンプで生産可視化を実現

機械部品・ギアポンプなどの製造を手がける同社は、生産計画をデータ化し、製造の進捗状況を「見える化」しました。加えて、部品の仕入れ作業もシステム化することで、迅速かつ正確な調達・検品体制を整備。生産効率を大幅に引き上げています。

日笠商事(津山市)―中小企業向けIT導入支援を事業に

DX導入支援を本業とする同社は、自社の情報共有アプリを開発し、会議で使用する紙をほぼ削減。デジタル化による業務効率化を実現しました。重要なのは、全社員にデジタル技術を学ぶ機会を提供し、IT人材育成に力を入れた点です。これが取引先への提案力向上につながり、地域のDX推進を支える企業としての立場を確立しています。

社会福祉法人津山福祉会(津山市)―介護現場のDX化で働き方改革

津山市内の特別養護老人ホームなどを運営する同法人は、身体の動きを検知するシステムを活用し、入居者の睡眠状態を遠隔から確認できる体制を整備。職員の負担を軽減しながら、より丁寧な見守りが可能になりました。加えて、介護記録を音声入力できるシステムを導入。記録業務の効率化とサービスの充実を同時に実現しています。

総社市企業も過去に受賞―株式会社共立精機の事例が示すモデルケース

令和6年度の「おかやまIT経営力大賞」優秀賞企業の中には、総社市の「株式会社共立精機」が含まれています。自動車部品メーカーである同社は、老朽化したシステムからの脱却を契機に、IoT、RPA、BIツールを活用したDX化を推進しました。

同社の取り組みの特徴は以下の通りです:

  • 老朽基幹システムからの脱却:長年使用してきたシステムを刷新し、現代のビジネス環境に対応
  • IoT・RPA・BIツールの統合活用:複数の技術を組み合わせた総合的なアプローチ
  • 生産計画精度の向上:データに基づいた正確な計画立案
  • 手作業削減と現場効率化:自動化により人的ミスを削減し、現場の生産性を向上

総社市に拠点を置く企業がこうした先進的な取り組みで評価されたことは、地域内の他の企業にとっても大きな励みとなります。自動車産業という岡山県の基幹産業において、中小企業がDXを通じて競争力を高めている事例は、地域経済全体のモデルケースと言えるでしょう。

木村

木村: 共立精機のような地域の中小製造業が、老朽化したシステムの刷新を機にDXへ踏み出したことは象徴的です。多くの中小企業が抱える「既存システムの限界」という課題を、単なる更新ではなく経営変革の契機として捉えている点が重要です。こうした事例が地域内で共有されることで、他の企業も一歩を踏み出しやすくなります。

岡山県内企業のDX進化の特徴―「守り」から「攻め」への転換

過去の受賞企業を振り返ると、岡山県内企業のDX進化には明確な特徴が見られます。

1. 業務効率化から経営戦略への転換

初期段階のIT投資は、データ入力の自動化など「守りのIT」が中心でした。しかし近年は、生産管理システムを自社で開発したり、新しいビジネスモデルを創出したりするなど、戦略的なIT活用が広がっています。

令和5年度大賞を受賞した株式会社クレスコ(岡山市東区)は、生産管理システムをスクラッチで開発し、IoT連携、RPA導入で作業効率化を実現。残業時間削減と経常利益増加を同時に達成しました。令和6年度大賞の院庄林業株式会社(津山市)は、AppSheet、kintone、RPA、Python、ラズパイといった多様なツールを活用し、製材業という伝統産業においてもデジタル化が可能であることを示しました。

2. 中小企業の挑戦を支えるエコシステムの形成

大企業だけでなく、中小製造業や地域企業がDXに取り組む事例が増加しています。背景には、低コストでシステム構築できるノーコード・ローコード開発ツールの普及と、地域のIT企業や大学がこれらの企業を支援する体制が整ってきたことがあります。

中国精油の事例では、ノートルダム清心女子大学との連携が成功の鍵となりました。地域の教育機関と企業が協力することで、最新の技術を実務に応用する道筋が開かれています。

3. 人手不足対策としてのDX

少子高齢化による人手不足は、企業経営の重大な課題です。岡山の企業は、自動化やデータ活用で人員を創造的な業務にシフトさせる取り組みを積極的に行っています。

令和6年度優秀賞の東洋精機産業株式会社(岡山市中区)は、生産管理システム導入により納期遅れを60%削減し、生産管理工数を120時間削減。その結果、月5千円のベースアップを実現し、営業利益を12.5%増加させました。DXが従業員の待遇改善にも直結している好例です。

業種の多様化―製造業から医療・福祉・農業まで

受賞企業の業種も多様化しています。令和5年度優秀賞には、倉敷中央病院(医療業)や木下農園(農業)といった、これまでIT化が遅れがちだった分野の企業・団体が含まれています。

倉敷中央病院は地域中核病院として約200施設と電子カルテ情報を共有し、セキュアな情報連携基盤を構築。医療資源の有効活用と高齢化社会への対応を実現しました。木下農園はスイートピー栽培専業農家として、設備制御用IoTを自作し、IT記録・分析システムを自ら開発。1本あたりの生産効率向上と環境負荷低減を同時に達成しています。

まとめ―DXは「技術導入」ではなく「経営改革」そのもの

「おかやまDX経営力大賞」の受賞企業たちの取り組みから見えるのは、DXが単なる「技術導入」ではないということです。むしろ、人員配置の最適化、業務プロセスの根本的な見直し、新しいビジネスモデルの創出といった、経営全般に関わる改革プロセスなのです。

中国精油のAI活用は、熟練の技を数値化し、属人性を排除しながら人間にしかできない創造性を解放する試み。平林金属のアプリ開発は、自社の業務改善に留まらず、地域全体のリサイクル事業を支援する仕組みへと発展させています。共立精機のような総社市の企業も、自動車部品製造という地域の基幹産業において、DXを通じた競争力強化を実現しました。

岡山県内の受賞企業に共通するのは、以下のポイントです:

  • 経営課題の明確化:人手不足、技術伝承、業務効率化など、具体的な課題を特定
  • 適切な技術選択:AI、IoT、RPA、ノーコードツールなど、課題に応じた技術を選択
  • 外部連携の活用:大学、IT企業、支援機関との協力体制を構築
  • 人材育成への投資:全社員がデジタル技術を学ぶ機会を提供
  • 成果の可視化:製造時間削減率、売上増加率など、数値で成果を示す

平成20年(2008年)から続くこの表彰制度は、令和2年(2020年)に「おかやまIT経営力大賞」から「おかやまDX経営力大賞」に改称されました。この名称変更は、単なる情報技術の導入から、デジタルを活用した経営変革へと、企業の取り組みが進化したことを象徴しています。

岡山市、倉敷市、総社市をはじめとする岡山県内の企業が、それぞれの地域特性と産業基盤を活かしながらDXに取り組む姿は、地域経済全体のデジタル化が着実に進展していることを示しています。化学品精製、リサイクル、発泡プラスチック加工、産業機械製造、自動車部品製造といった岡山の産業基盤を支える企業群が、DXを通じて新しい時代への適応を図っています。

木村

木村: 今回の受賞企業に共通するのは、「DXを目的化していない」という点です。あくまで経営課題の解決手段としてデジタル技術を位置づけ、人材を創造的業務にシフトさせることで企業価値を高めています。地域の中小企業がこうした先進事例から学び、自社に合った形でDXを進めることで、岡山全体の産業競争力が底上げされていくでしょう。こうした取り組みが波及し、地域経済全体のデジタル化が加速することを期待しています。

表彰式開催日: 2025年11月20日
主催: 岡山県経済団体連絡協議会ほか実行委員会
表彰式会場: 山陽新聞社さん太ホール(岡山市北区柳町)

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